日本人スタッフの不安を払拭。海外現地研修を通じて相互理解を深め、外国人人材の定着を促す
EPA受入れ事例紹介
朝倉市にある社会福祉法人寿泉会の介護老人保健施設ラ・パスは、平成22年からほぼ毎年2名ずつ、フィリピンからEPA介護福祉士候補者を受け入れています。平成29年までに12名を候補者として受け入れ、既に6名が介護福祉士の国家試験に合格し、EPA介護福祉士として働いています。同法人の統括本部の稲葉圭治本部長に、受け入れの経緯や候補者に対する教育体制、現在活躍しているEPA介護福祉士の現状等について、お聞きしました。(以下、文中敬称略)
ホスピタリティあふれるフィリピンの国民性を確信。日本の介護との融合へ
――EPA介護福祉士候補者の受け入れを始めた経緯をお聞かせください。
稲葉
私は平成15年に当法人に入職しました。前職は介護とは異なる業界だったので、翌年から2年間、米国で手広く介護事業を展開している企業にインターンとして入り、米国の介護事情を学びました。米国の介護現場ではアメリカ人看護師がまとめ役となり、現場ではフィリピン、インド、メキシコ出身者らが介護職として働いていました。その状況を目の当たりにした時、今後日本でも米国のようなビジネスモデルが主流になるのではないかと感じたのです。
日本では、介護人材の増減は、景気に大きく左右されます。就労人口が減少する中、どこから人を連れてくるのかではなく、どのようなビジネスモデルを創り上げるかが重要だと考えました。そこで帰国後、介護現場で外国人就労が可能になるよう内閣府へ、特区による外国人介護士の受け入れができるように働きかけを続けましたが、制度の壁は高く、なかなか話が前進しません。そうしているうちに平成20年にスタートしたのが、EPA介護福祉士候補者受入れの制度です。
――EPA制度創設前から外国人介護人材の可能性を探っていたということですね。受け入れているEPA介護福祉士候補者は全員がフィリピンからですが、受け入れ国をフィリピンに絞った理由はなんですか?
稲葉
私は、前職でフィリピンに長く駐在していました。フィリピンの方は家族を大切にし、高齢者にも優しく接します。ホスピタリティあふれる国民性は、日本の介護現場で生かされ、きっと活躍してくれる人材になり得るとの確信がありました。ただ課題は、日本人の受け入れる姿勢です。言葉や文化の違いに対する日本人スタッフの不安を、どうすれば払拭できるかを考えました。
――具体的に何を行ったか、教えてください。
稲葉
まず、管理者向け、介護職向け、そして全体で何度も勉強会を開き、一緒に働くためのイメージづくりを行いました。それと同時に、介護老人保健施設ラ・パスで、永住資格のあるフィリピンの方を先行して雇用しました。彼女は日本人と結婚していて日本人の特性や日本の文化を理解していましたから、これから来日するフィリピンの候補者との橋渡し役になっていただくことが最大の目的でした。
日本人スタッフをフィリピンに派遣。言葉が通じない不安を共有し、相互理解へ
――実際に、EPA介護福祉士候補者の受け入れが始まり、現場の戸惑いなどはありましたか?
稲葉
日本人は時間に正確であるとか、日本のお年寄りは、食卓を囲む全員に配膳されないと食事を食べ始めないなど、最初はフィリピン人には理解しにくい部分もあったようですが、そこは先行して採用した永住資格のあるフィリピン人スタッフが仲介役となり、説明してくれました。
候補者を含め、フィリピン人スタッフは、スキンシップが自然で、まるで家族のように利用者と接するので距離の縮め方も上手です。鼻歌を歌いながら入浴介助をしたり、これが日本人なら不謹慎だと叱られそうですが、私は、候補者たちが楽しんで仕事をしていることの証だと思うのです。そんな彼女たちの姿勢は、日本人スタッフにとっても良いお手本になっています。
――寿泉会では、候補者の介護福祉士国家試験の合格率100%。EPA介護福祉士となった人材の定着も進んでいます。その秘訣は?
稲葉
学習時間は1回あたり3.5時間。1年目の候補者は、勤務時間内に週3回、2年目は週2回、3年目は週2回のうち1回を国家試験対策にあてています。学習室を設け、専任の非常勤講師を配置して指導します。候補者の目標はあくまで試験合格ですので、そこはきっちり時間を割いています。
また、定着についてですが、フィリピン人と日本人の相互理解をさらに深めるため、当法人では毎年、6~8名の日本人スタッフをフィリピンに派遣しています。フィリピンの風土を肌で感じてもらうことのほか、滞在中に大学、介護施設また市場等を訪ね、言葉が通じない土地での暮らしを体験してもらうことが目的です。海外で感じた不安を、候補者たちの不安と重ね合わせることで、共感できる関係づくりを育んでいます。
――最後にこれから外国人人材の受け入れを検討している施設へのアドバイスをお聞かせください。
稲葉
何より日本人スタッフへの丁寧な説明が大切です。一緒に働く上で不安を感じるのは当然。経営トップは、職員がその不安を払拭できるよう、受け入れのイメージやビジョンを明確にし、きちんと説明することが重要です。
家族のように感じてもらえるような介護をしたいです
EPA介護福祉士候補者
ラリオサ・ソルマリー・ナポレスさん
フィリピン出身
平成28年11月から同施設で勤務
私はミンダナオ国際大学(MKD)の出身です。この施設では、MKDから候補者として来日し、既に試験に合格し、EPA介護福祉士として働いている先輩がたくさんいるので安心です。
介護の仕事はとても楽しいです。食事の摂取が少ない人にどうやって食べてもらおうとか、入浴を嫌がる利用者さんにどんな声かけをしたらいいだろうなど、毎日考えながらケアをしています。家族と離れて暮らす利用者さんが安心して暮らせるように、私のことを家族のように感じてもらえると嬉しいです。
いつも利用者さんのことを考えられる介護福祉士を目指します
EPA介護福祉士候補者
シラガン・ジーンさん
フィリピン出身
平成28年11月から同施設に勤務
高校を卒業して大学で学びたいと考えていた時、友人からMKDを勧められ、進学しました。MKDでは日本語や日本の社会福祉を学びました。日本についてはあまり知らなかったのですが、日本語を学ぶうちに好きになりました。
仕事では、レクリエーションや集団体操の時間が好きです。私が前に出て体操を教える時に言葉を間違ったりすると、利用者さんが優しく教えてくれます。頑張って試験に合格して、いつも利用者さんのことを考えられる介護福祉士を目指したいです。
施設概要
社会福祉法人寿泉会
介護老人保健施設ラ・パス
〒838-0061
朝倉市菩提寺183-53
電話:0946-23-1322
経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補者の受け入れについて
日本と相手国の経済上の連携を強化する観点から公的な枠組みで特例的に行うもので、インドネシア、フィリピン、ベトナムからの外国人介護福祉士候補者が日本の介護施設で就労・研修をしながら日本の介護福祉士資格の取得を目指すものです。介護福祉士候補者の受け入れは、国内で唯一の受け入れ調整機関である公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)を通じて行います。